変化を恐れず進化し続けるMaroon 5のバンドスピリット。
BY FEEL ANYWHERE
2022.11.28
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2022.11.28
2002年6月にデビューアルバム『Songs About Jane』を発売して以来、常に世界のミュージックシーンのフロントラインに立ち続けているマルーン5。これまでにリリースした作品のトータルセールスは1億1,000万枚を記録、彼らの音楽は幅広い世代のリスナーの胸に刻まれていることだろう。当初5人で結成されたマルーン5は、現在はアダム・レヴィーン(Vo/Gt)、ジェシー・カーマイケル(Key/Gt)、ジェームス・ヴァレンタイン(Gt)、マット・フリン(Dr)、PJモートン(Key)、サム・ファーラー(Key/Ba/Gt)の6人からなるバンドだ。
特筆すべきは、最近のミュージックシーンではバンド形態のグループがなかなかフロントラインに登場しにくくなっているが、その中で彼らは一貫してバンドスタイルにこだわり続け20年間も第一線を走り続けていることだ。その一方、マルーン5はデビューした当初からアイドルグループ的なボーイズグループと見られることが多かった。それはオルタナティブ・ロック全盛だった頃、マルーン5のサウンドはR&Bやヒップホップの影響が色濃いのが特徴的だった。当時は(そしていまも)、そういったソウル要素も兼ねるバンドは珍しく、ロックの持つエッジ感よりメロディ感を重視したマルーン5のサウンドに対して、リスナーの解釈がうまくいかなかったように思える。
Maroon 5 – Sugar (Official Music Video)
※何度見ても多幸感を味わえる「Sugar」(2015)のMV。多くの人が抱くマルーン5のイメージは「Sugar」のようなポップで優しいメロディを歌うポップバンドという見方ではないだろうか。ほとんどのライブ会場でアンコールに選曲されている。
彼らのサウンドは常にアップデートされ続けてきた。だが彼らに対する印象やイメージがマルーン5のどの時代の音楽を聴いたかによって、まったく違う受け止め方をされているのも事実だ。今回のアーティクルではそんなマルーン5の音楽の原点と、彼らのサウンドの変遷、そして彼らがバンドとして世界のトップに君臨する理由を探っていきたい。
マルーン5のその原点は1994年まで遡る。
マルーン5は、中心メンバーであるアダム、ジェシー、そしてミッキー・マデン(2020年脱退)の3人が13歳の時に、2歳年上のライアン・デューシック(20年脱退)とともに結成したバンドのカーラズ・フラワーズとして産声をあげた。翌年にはドアーズやガンズ・アンド・ローゼズ、ニルヴァーナなど数々のレジェンドたちがライブを行ってきたロックの聖地であるライブハウス・Whisky a Go Goへの出演を果たす。早熟な才能は多くの音楽関係者から注目を浴び、若きパワーポップ・バンドとして大きなチャンスをつかみ、1997年にはリプリーズ・レコードからフルアルバム『The Fourth World』をリリースしている。
Kara’s Flowers (Maroon 5) at The Whiskey FULL 1995
※貴重なカーラズ・フラワーズ時代のライブ映像。マルーン5との違いにびっくりすることだろう。
しかし、このアルバムはほとんど注目されることなく、半年後には廃盤。彼らの夢は使い捨てのように扱われ、きっと大きな挫折感を味わったことだろう。やがてバンドは休眠状態となり、彼らは一旦音楽から離れ大学への進学を選択する。アダム、ジェシーは生活拠点をニューヨークに移すのだが、ここで二人は新たな音楽体験をする。ニューヨークは西海岸と違って、あらゆるジャンルの音楽が活気に満ちていた。街中からはゴスペル音楽が聴こえ、それまで聴くこともなかったジェイ・Zやノーストリアス・B.I.G.、ミッシー・エリオットなどのブラックカルチャー・ミュージックに二人は夢中になっていく。
“ロックとロック以外の
音楽を組み合わせたら
どんな音楽が生まれるのだろう”
2人が目を輝かせながら、自分たちが作りたい新しい音楽について熱く語り合った姿が想像できる。西海岸では経験したことがなかったような都会の空気やヒップホップ・カルチャーは二人の感性を大いに刺激し、新しい音楽に目を向けさせたこの経験は、その後のマルーン5の多彩なサウンドに大きな影響を与えることになる。
※2003年、まだ5人だった頃のマルーン5。
Photo:Jesse Hill/Contour by Getty Images
その後、アダムとジェシーは西海岸に戻り、再びミッキーやライアンとともにバンド活動を2001年に再開。そこに、友人だったジェームス・ヴァレンタイン(Gt)が加入し、カーラズ・フラワーズからマルーン5として名前も改めて新たなスタートを切る。そしてマルーン5として初めて手がけたデモテープが設立されたばかりのインディーレーベル、オクトーン・レコードの目に止まり、レーベル第1弾のアーティストとして契約。1stアルバム『Songs About Jane』を完成させ、2002年に彼らは再度音楽シーンに戻ってきた。
カーラズ・フラワーズのパワーポップ・ロックのサウンドを持ちながら、ソウル・ファンクを融合させた新たな試みに挑戦した『Songs About Jane』だったが、リリース当時は一部のインディーズ・ファンにしか注目されていなかった。しかしカーラズ・フラワーズの時と違い、彼らに追い風が少しずつ吹き始めていた。
アルバム収録曲の「Sweetest Goodbye」が映画『ラブ・アクチュアリー』のサントラに収録されたり、ジョン・メイヤーなど様々なアーティストとの共演を重ねていく中で、マルーン5に対する関心は少しずつ高まっていく。時間はかかったものの『Songs About Jane』は、リリースから2年以上が経った2004年9月にビルボードチャートで6位まで上り詰める。これはマルーン5が長い時間をかけてファンやリスナーと揺るぎない信頼感を育んできたことを証明するものだ。
そして決定打になったのは、アルバムからのセカンドシングル「This Love」。スティーヴィー・ワンダーを彷彿させるソウルフルなメロディは一度聴いたら心を捉えられてしまうし、そこにアダムのジャジーな歌声とジェシーのエモーショナルな鍵盤の音色が融合した新しいバンド・サウンドに世界中の人が酔いしれた。日本でも10万枚を超えるヒットとなりゴールド認定を受けている。マルーン5と言えば「This Love」という往年のファンも多いのではないだろうか。
Maroon 5 – This Love (Official Music Video)
※アダム・レヴィーンの当時の恋愛関係について書かれた「This Love」。扇情的なミュージックビデオは、イギリスの新聞『デイリー・テレグラフ』で“ポップなポルノビデオ”と評されたが、2004年のMTV Video Music Awardsでは最優秀新人賞を受賞した。
2002年にリリースした3年後の2005年に第47回グラミー賞で最優秀新人賞を、そして翌年には「This Love」で最優秀ポップ・パフォーマンス賞を受賞する。カーラズ・フラワーズ結成から10年、マルーン5の1stアルバム『Songs About Jane』をリリースしてから3年、様々な葛藤を経て、彼らは遂に頂点に立ったのだ。
マルーン5の20年のキャリアをすべて紹介するのは難しいのだが、ここでは彼らのエポックメイキングとなった作品を中心に振り返っていきたい。世界中からの評価も集め、トータルで1,000万枚以上のセールスを記録することになった『Songs About Jane』には、もうひとつの名曲が収録されている。それは多くの人も耳にしたことであろう「Sunday Morning」だ。アダムの声とサウンドが心地よいミディアムテンポのこの曲は「This Love」の挑戦的アプローチと異なり、あくまでエヴァー・グリーンな雰囲気を持っている。のちの「Sugar」や「Girls Like You」にも通じる、マルーン5の真骨頂の一つと言える楽曲だ。この2曲を対比するだけでまったく異なる表情を持つのだが、アルバム『Songs About Jane』は実に多彩な楽曲ばかりだ。そのひとつひとつが、現在のマルーン5の原点となっている。
Maroon 5 – Sunday Morning (VEVO Carnival Cruise)
※2011年に開催された「VEVO Carnival Cruise Live」での「Sunday Morning」。音源だけを聴いているのとはまた違った感覚を味わえるのではないだろうか。
そしてプリンスやマイケル・ジャクソン、トーキング・ヘッズのサウンドといった80年代のダンス・ミュージックを意識してリリースされたのが2ndアルバム『It Won’t Be Soon Before Long』(2007)。それを一番感じることができるのが、マルーン5初の全米1位シングルとなった、「Makes Me Wonder」だろう。80年代を彷彿させる鮮やかなシンセサウンドとギターのカッティングが心地よい。その心地よさとは裏腹に、マルーン5が変化することに前向きな革新的なグループなのだということの決意を表している。
Maroon 5 – Makes Me Wonder (Official Music Video)
※アルバム『It Won’t Be Soon Before Long』はビルボード初登場で1位を獲得するほか、デジタル配信も10万ダウンロードを超え、アメリカのiTunes Storeで2007年の年間ダウンロード・アルバム・チャート1位を獲得。マルーン5は音楽のデジタル化にも順応していった。
3rdアルバム『Hands All Over』 (2010) での1曲は、間違いなく「Moves Like Jagger」だ。タイトルと歌詞にある「ジャガー」とはローリング・ストーンズのミック・ジャガーのことで、MVにはミック・ジャガーの過去の映像もふんだんに取り入れられている。ミック・ジャガー自身も「非常に嬉しいことだ。この曲から印税が貰えたら嬉しいんだけど」とジョークを飛ばしながら賛辞している。フィーチャリングにクリスティーナ・アギレラを迎え、バンドサウンドとエレクトリックサウンドを融合させるなど、また新たなるマルーン5のサウンドを感じることができる。
Maroon 5 – Moves Like Jagger ft. Christina Aguilera (Official Music Video)
※「Moves Like Jagger」は、バンドとしては異例とも言える外部作家とコラボレーションした楽曲。彼らの変化に対応するための決断は大成功し、世界のダンスフロアに欠かすことのできない名曲となった。
前作から僅か1年半で発表されたのが4thアルバム『Overexposed』(2012)。アダムはこのアルバムを「僕らのアルバムの中で最も多様性があり、ポップなアルバム」と語っている。その理由は『Overexposed』でのそれぞれの曲でプロデューサーを変え、外部の作家との積極的なコラボレーションをおこなうことで、自分たちだけでは見えない新たな魅力を引き出そうとしたのだ。「Moves Like Jagger」の成功を彼らは敏感に感じ取り、マルーン5の次なる試みをおこなったアルバムだ。「Payphone」は恋人にフラれた男が公衆電話で嘆いているという失恋ソングだが、多額の予算が投じられMVのスケール感は、まるでハリウッドの大作アクション映画のような内容。ついつい「大袈裟すぎるでしょ」と笑ってしまうが、そんなことも織り込み済みのポップ感覚がたまらない。
Maroon 5 – Payphone ft. Wiz Khalifa (Explicit) (Official Music Video)
ジャケットを飾る象徴的な“V” の文字が印象深い5thアルバム「V」(2014)。このアルバムからはマルーン5の最大の名曲「Sugar」とはまったく真逆の楽曲も収録され、「Animals」ではサウンド面で骨太のリズムと荒々しいアダムのボーカルでロック色を濃くしたマルーン5を堪能できる。しかし「Animals」は好意を抱く女性を執拗にストーキングする男がテーマになっていて物議を呼んだ。
さらにMVでアダムは部屋中を隠し撮りした女性の写真で埋め尽くすクレイジーな男性を演じ、最後は血まみれになりながら好意を抱いていた女性と裸で抱き合うというショッキングすぎる内容だ。テレビ局によっては放映禁止となりマルーン5史上最悪のMVという声も上がったほどだ。しかしこれもまた、優等生的なマルーン5の殻をどこかでぶち破りたいという新たな試みだったのだろう。ちなみにMVでストーキングされる女性を演じたのは、アダムの妻・ベハティ・プリンスルーという点に注目したい。
Maroon 5 – Animals (Official Music Video)
※視聴注意の「Animals」だがマルーン5の別の顔をみることができる。「Animals」もまた「Sugar」と同様に全米チャート1位となった。
またこの『V』には『Begin Again (邦題:はじまりのうた)』で映画デビューしたアダムが歌うソロ楽曲「Lost Stars」がボーナストラックとして収録された。何度見ても胸が締め付けられるこのシーン。同じアダムとは思えないギャップだ。まさにアルバム『V』は聴く人が戸惑ってしまうほど多面的なマルーン5の魅力と挑戦が凝縮された、後世に聴き継がれるべき高い密度のアルバムなのだ。
Adam Levine – Lost Stars (from Begin Again)
「Moves Like Jagger」以降、マルーン5は外部プロデューサーや、ケンドリック・ラマー、ニッキー・ミナージュ、SZAなど数多くのアーティストとのコラボレーションに積極的に取り組んできた。
その成果が大きな形になったのが2017年にリリースされた6thアルバム『Red Pill Blues』で、カーディー・Bとコラボレーションした「Girls Like You」は、反復するメロディとアグレッシブなラップが融合し、時代を象徴するポップソングを創り出すことに成功した。“君のような女性が必要だ”と、ちょっと頼りないが女性の心をくすぐる男性の気持ちを歌い上げたこの曲はセールス的にも全米トップ10に33週間もランクインし、2010年代のシングルチャートでは全米5位にランクインするなど、マルーン5としての最大のヒット曲になっている。
Maroon 5 – Girls Like You ft. Cardi B (Official Music Video)
※MVにはカミラ・カベロ、ガル・ガドット、エレン・デジェネレスなどエンターテインメントやスポーツで活躍する数々の女性セレブリティが登場しているのにも注目。アダムの妻ベハティと娘のダスティーちゃんの姿も。
こうして振り返るとマルーン5の20年は、変化の激しい音楽エンターテインメントのフィールドの中で新しい音楽を生み出す果敢なチャレンジの20年だったということがわかる。バンドのルーツにあるファンクやソウル、R&Bなど彼らのコアなルーツ音楽をリスペクトしながらも、彼らはメインストリームのサウンドに対応するべく何度も脱皮を繰り返し、常に最新型のマルーン5であり続けてきたのだ。そんなキャリアは、まるでダーウィンの「進化論」を体現しているようにさえ感じてしまう。
サウンドスタイルを大きく変えながらもマルーン5がバンドスタイルにこだわり続けてきたのはなぜなのだろうか。それは2021年にリリースされた7thアルバム『JORDI』で感じることができる。このアルバムは、2017年12月に急逝したマルーン5の元マネージャーで馴染の親友・ジョーダン・フェルドスタインのニックネームがタイトルになっている。
“このアルバムは僕たちの
マネージャーの名前をとっています。
共に創り上げた作品です。
そして僕はバンドの歴史の一部となる
今作のタイトルに
彼の名前を付けさせてもらった事を
誇りに思ってます。
デビューから共に創り上げてきた
バンドの歴史です。
ジョーディ、愛してるよ”
Maroon 5 – Memories (Official Video)
※アダム・レヴィーンが切々と歌いあげる様をワンカメラの接写で捉えた、シンプルながら心に響くエモーショナルな映像が印象的。
このアダムのコメントに、裏方として長年支え続けてきたジョディーもまたマルーン5の一員なのだという深い感謝と信頼を感じることができる。チームとしての絆。バンドとしての絆。それがマルーン5の強みでもあったのだ。振り返ると2006年に脱退したライアンにもこんなエピソードがある。彼は2004年頃からドラムを叩けなくなるほど腕を患っていた。そんなライアンをメンバーはライブに帯同させ、1曲だけパフォーマンスさせたり、コーラスをさせたりするなど最後までライアンの居場所を用意していた。
バンドはセッションで音が作られていく。アダムが、そしてマルーン5がバンドスタイルにこだわるのは、このプリミティブな部分を大切にし続けることで、新しいものを生み出すことができることを知っているからなのだろう。これがバンドであり、チームであり、ファミリーであるマルーン5の強みなのだと改めて感じとれるのだ。
※2019年に行われたスーパーボウルのハーフタイムショーでのステージ。
Photo:Jamie Squire/Getty Images
ここまでマルーン5のキャリアを振り返ってきたが、彼らに対する印象は少し違ったものになっただろうか。最後に彼らの圧巻のライブステージを見てもらえれば、さらにその印象も改まるかもしれない。アダムの派手なギターソロ、マットの安定感のあるドラム、時折ハードロック感を滲ませるジェームスのギタープレイなど、マルーン5のライブは音源の印象とは異なるスーパーロックショーが繰り広げられている。実はそれこそがマルーン5の真骨頂であり、彼らが20年間もアメリカ、そして世界の頂点に立ち続けている理由なのであろう。それを一番感じることができるパフォーマンスが、2019年のスーパーボウルのハーフタイムショーのステージだった。ヒット曲が全てメンバーによるバンドサウンドによって披露され、彼らのバンドとしての魅力をしっかりと味わうことが出来ることだろう。
Maroon 5 – Pepsi Super Bowl LIII Halftime Show ft. Travis Scott, Big Boi
アダムはアルバム『JORDI』をリリースした際に、現在のバンドシーンについて次のように語っている。
“悲しい。かつて(マルーン5が
デビューアルバムを出した頃)は
まだバンドがいたのに
今やどこにもいない。
まだ沢山のバンドがいて
あまり脚光を浴びていなかったり
ポップのスポットライトを
浴びていなかったりするだけなのかも
しれませんが
そうした場所に
もっとバンドがいることを願います”
近年の全米のヒットチャートを眺めると、バンドの名前を見ることはほとんどなくなってしまった。アダムの言葉はノスタルジックさではなく、バンドとして切磋琢磨できる環境がなくなってしまったことの悲しみと、それでも刺激的なバンドが登場してきて欲しいという願いだ。
音楽評論家ダン・コープはマルーン5について次のように語っている。まさにこれがバンドシーンの歴史と現在を表す言葉なのかもしれない。
“マルーン5は21世紀もっとも人気の
アメリカン・バンドです。
1960年代と1970年代はビートルズと
ローリング・ストーンズの時代。
2000年代と2010年代にはマルーン5がいる”
2020年2月23日、メキシコシティのフォロ・ソルからスタートした全世界60都市68公演に及ぶワールドツアーも、2022年12月10日のバンコク公演で終了。その直前となる12月の東京と大阪でのドーム公演で、進化し続けるマルーン5がどんな新しい魅力を見せてくれるか楽しみだ。