レゲエの歴史を塗り替えたアメリカ発のレゲエ・グループSOJA。

By FEEL ANYWHERE
2022.07.12

2022年はレゲエ音楽にとって重要な年だ。なぜならレゲエの生まれたジャマイカが、今年の8月6日で独立60周年を迎えるからだ。7月1日にジャマイカの首都・キングストンで開催された国際レゲエフェスティバル(「インターナショナル・レゲエ・デー」)でも、レゲエ文化とジャマイカ音楽の功績を見つめ直すプログラムが大いに盛り上がっていた。そんな2022年4月に開催されたグラミー賞で、レゲエ関係者を驚かす事件が起きていた。今年の「ベスト・レゲエ・アルバム賞」を受賞したのがSOJA (ソージャ)という、アメリカのバージニア州出身の白人8人組のレゲエ・グループだったからだ。今回はそんなSOJAについて紹介していきたい。

2022年グラミー賞「ベスト・レゲエ・アルバム賞」受賞 SOJA

賛否両論だったSOJAのグラミー受賞。

ソージャ。Photo:John Shearer/WireImage

これまでグラミーの「ベスト・レゲエ・アルバム賞」は、13回もグラミーを受賞したスティーブン・マーリー、ジギー・マリーなどのボブ・マーリーのファミリー・アーティストやジミー・クリフ、バニー・ウェイラーなどのレゲエを生んだジャマイカ出身のアーティストの独壇場だった。そこにジャマイカ以外の、まして白人アーティストがアワードを獲得する余地はなかったのだ(※ただし2019年はジャマイカ人のシャギーのスペシャルユニットを組んだスティングが、スティング&シャギーとして受賞)。

というより、このアワードは、誰もがジャマイカン・アーティストの聖域だと思っていたはずだ。だからこそ、SOJAのアルバム『Beauty in the Silence』のグラミー受賞は大騒ぎとなり、生粋のレゲエ・ファンやカリビアン・コミュニティの人たちからは「ジャマイカのカルチャーを奪われた!」「今年のグラミーは納得できない」などのコメントがソーシャルネットを埋め尽くし、大炎上となった。それほど衝撃的な事件だったのだ。

Things You Can’t Control (Official Lyric Video) -ソージャ-

しかしグラミーにノミネートされていたアーティストたちの反応は違った。グランプス・モーガン(ジャマイカの著名なレゲエ・アーティストであるデンロイ・モーガンの息子)は、「SOJAがアワードを獲得したのは、当然の結果だ」と祝福の言葉を贈った。またジャマイカの人気女性レゲエ・アーティストのエタナは「あの頃、いろんなライブハウスで歌うことができたのは、 SOJAのおかげだった。本当に感謝しているわ」とSOJAと共に歩んできた過去を振り返り、感謝の言葉を述べている。ジャマイカのアーティストたちは知っているのだ。バンドを結成して四半世紀となる25年間、SOJAは真摯にレゲエに向き合ってきたことを。そしてグラミーに値する8人だということを。

SOJAの誕生に影響を与えたボブ・マーリー。

ボブ・マーリー。Photo:Hulton Archive/Getty Images

そんなSOJAはどのように生まれたのだろう。それはSOJAの中で重要人物でありリード・シンガーのジェイコブ・ヘンフィルによるところが大きい。父親の仕事の関係でアフリカのリベリアに住んでいたヘンフィルは、幼少期にリベリアの内戦に遭遇、家族たちは浴槽に3日間隠れ、銃戦から逃れていたという経験を持っている。アフリカから帰国したヘンフィルは音楽に詳しいボービー・リー(Ba.担当)と仲良くなり、2人でバンドを結成し学園祭などで演奏するようになる。その頃に出会ったのがボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの1979年のアルバム『Survival』。これがヘンフィルにとって初めてのレゲエ体験となった。このアルバムはアフリカ各国の独立闘争や人権格差などをテーマにしたアルバムだ。この頃のボブ・マーリーはパン・アフリカ主義を表明し、音楽を通じて、アフリカの解放と団結、そして平和を訴えていた。

CONCERT SANTA BARBARA 1979 -ボブ・マーリー-

10代になったばかりのヘンフィルはこのアルバムに大きな衝撃を受ける。そこには彼自身も体験したアフリカでのシビアな体験が、テンポの良いレゲエのリズムの裏側で歌われていた。彼はますますレゲエに魅了されていった。ヘンフィルはその時のことをこのように振り返っている。

“あれが今までで一番素晴らしいレゲエ・アルバムで、最高のベースラインと最高のリリックが1枚のレコードに全て詰まってるんだ”

ヘンフィルの人生を決定づけたボブ・マーリーのレゲエ。高校に進学したヘンフィルはライアン・バーティ(Dr.)、ケニス・ブラウネル(Per.)、そしてパトリック・オーシェー(Key.)と出会い、SOJAを1997年に結成し、レゲエ・バンドとしての本格的な活動をスタートする。

世界中を熱狂させてきたSOJAのヒストリー。

デビューアルバム『Get Wiser』を2006年にリリースすると、あっと言う間にBillboardのTOP20にチャートイン。レゲエ部門で1位を獲得するなど、華々しいデビューを果たした。SOJAのレゲエはアイランド・レゲエに通ずるメッセージが秘められていると、ハワイ、ポリネシアに瞬く間に広がっていった。その頃に、J Boogがリリースした「Hear Me Roar」が、Billboardレゲエ・トップ・チャートで8位になるなど、アイランド・レゲエが大きく注目されていたのも、SOJAにとって追い風になったのだろう。2008年にはハワイで初のライブを大成功させると、ヨーロッパや南米など世界中でライブ・ツアーを開催、本国アメリカ以上に熱狂的なファンに迎えられるようになっていく。メジャーレーベルの後押しが無いにも関わらず、インディペンデント活動の中、SOJAは大きく注目されるようになっていった。

4枚目のアルバム「Strength to Survive」 (2012) は67週間にわたり、Billboardのレゲエ・チャートで何度も1位を獲得するなどロングランヒットとなり、SOJAの存在感を示すことに成功した。その後も寡作ながらSOJAのアルバムは、セールス的な成功と音楽的な評価を高めていく。

When We Were Younger (Official Video) -ソージャ-
※メンバーの幼少期からいままでの写真や映像がふんだんに使われたMV。若い頃に抱いていた想いを振り返りながらも、新たな道を歩む決意に満ちたナンバー

そんなSOJAに対してグラミーも放ってはいなかった。2015年のグラミーでは、アルバム『Amid the Noise and Haste』(2014)が初ノミネートされる。このアルバムはSOJAにとって非常に重要なものになった。ヘンフィルに大きな影響を与えたボブ・マーリーの息子であり、自身も3度のグラミーを受賞しているダミアン・マーリーがゲスト参加、収録曲「Your Song」で共演を果たしたのだ。ダミアン・マーリーはSOJAに対して「ボブ・マーリーのメッセージ音楽を彷彿させる、人種を越え、階級も越えた万人に受け入れられるビッグ・レゲエ・アーティスト」と最大の賞賛の言葉を述べている。このアルバムはSOJAにとって間違いなくエポック・メイキング的なものになった。そして2017年には彼らのホームタウンで開催されたライブを収録したアルバム『Live in Virginia』で、2度目のノミネートを果たすことになる。

Your Song (Official Video) ft. Damian Marley -ソージャ-

SOJAはこれまでに、世界30カ国以上でヘッドライナーのライブイベント出演を果たすなど、アメリカ発のトップ・レゲエバンドとして25年間走り続けてきている。 SOJAにとっても、SOJAを知るアーティストにとっても、そしてなにより世界中のレゲエ・ファンにとって、今年のグラミーは特別なことではなく、当然の受賞だったのだろう。

25年間変わらぬSOJAの奏でるレゲエの原点。

SOJAを結成して25年。彼らの音楽性が大きく変わることはなかった。一貫しているのは〈ルーツ・レゲエ〉の基盤を崩さないことだった。彼らのレゲエのリズムは愚直なまでに変わることがない。そしてボブ・マーリーのようにシンプルでわかりやすいリリックだ。SOJAの曲はこの2点を徹底的にこだわり続けている。しかし、それは飽きることなく人々のリズムに同調していくのだ。

I Believe (Official Lyric Video) ft. Michael Franti, Nahko -ソージャ-

ヘンフィルは以前、メディアのインタビューでSOJAの音楽について次のように語っている。

“ボブ・マーリーはたくさんの人を結びつける素晴らしい術(すべ)を持っていた
彼こそが世界で最も優れた音楽家であり、自分の中で、それは現在も変わらない。

ところが最近の音楽はそんな働きかけが欠けているような気がする。
たくさんのお金、部屋いっぱいの女の子
それらは生きていくうえで、実はあまり関係ないんじゃないかと思う

自分が歌ってることは、本当にシンプルなことなんだ”

グラミーを受賞したアルバム『Beauty in the Silence』は、J Boog、カリー・バッズ、コモン・キングス、ジャリッド・ワトソン(Dirty Heads)などレゲエ・フィールド以外からも多彩なアーティストがゲスト参加しているので、SOJAの新しいサウンド・アプローチも感じることができる内容になっている。しかしヘンフィルの想いは一緒だ。1曲目を飾る「Prees Rewind」では、ヘンフィルがレゲエに出会った14歳の時の興奮と驚きが、まるで昨日のことのように生き生きと表現されている。そして音楽の素晴らしさを教えてくれたアーティストたちへの感謝の気持ちも歌われている。

Press Rewind (Feat. J Boog & Collie Buddz) (Official Lyric Video) -ソージャ-

SOJAの音楽を聴いていると、きっとハッピーになれるし、それがレゲエの良さなのだと改めて知ることができるはず。是非、みなさんの音楽ライブラリーにぴったりな曲を見つけて欲しい。

PLAYLIST