ティーンの恋心を赤裸々に歌い、世界中をバズらせた、Olivia Rodrigo。

BY FEEL ANYWHERE
2022.06.06

2021年、彗星の如く登場したオリヴィア・ロドリゴ(以下、オリヴィア)。デビュー曲「drivers license」は全米・全英シングルチャート初登場1位となる偉業を達成、また音楽ストリーミングでは、Apple Musicで全世界48の国と地域、Spotifyは31カ国のチャートで1位を記録し、瞬く間に世界中のトップ・トレンドに躍り出たのだ。その後のシングルもヒットチャートを席巻し続け、デビューアルバム『SOUR』は、Billboard史上最大の初週売上を達成したデビュー・アルバムとなった。Z世代のファッションアイコンとして世界中の若者たちを熱狂させ、第64回グラミー賞で最優秀新人賞ほか3部門を受賞。またTIME誌では「2021エンターテイナーオブザイヤー」、Billboardでは「ウーマンオブザイヤー」に選出された。コロナ禍で世界中のエンタテインメント産業が停滞する中で、瞬く間にトップアーティストになった恐るべきティーンエイジャーのオリヴィア。そんな彼女の魅力を紹介していこう。

ディズニーのヒロインのようなプリンセスストーリーの始まり。

2022年ブリットアワードで受賞したオリヴィア・ロドリゴ。Photo:Karwai Tang/WireImage

6歳から演技と歌を学び始めたオリヴィアのキャリアスタートは12歳の時。2015年に公開された映画『An American Girl: Grace Stirs Up Success』で主役のグレース・トーマスに抜擢されたことから始まる。その後も女優活動を続けたオリヴィアだったが、彼女の未来を決定的にしたのが、2019年にディズニー・プラスで配信された『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』。高校を舞台に10代の若者たちが『ハイスクール・ミュージカル』の上演に挑戦する姿を描くこのドラマで、16歳だったオリヴィアはヒロインのニニを演じ、全編に渡って抜群の歌唱力を披露し世界中の若者たちを魅了した。そしてこのドラマで オリヴィアはもう一つの才能を発揮する。それは重要なシーンを彩る感動的なポップバラードである「All I Want」という曲が、オリヴィア本人の作詞・作曲したものだったという事実。「All I Want」は番組ファンコミュニティで大きなバズを生み、世界中を駆け抜けていく。歌が上手なポップ・アイコン的に見られていたオリヴィアは、卓逸したソングライティング能力を持つ少女でもあったのだ。

All I Want (From HSMTMTS | Alternate Video | Disney+) -オリヴィア・ロドリゴ-

オリヴィアが音楽に関心を持ったきっかけは、彼女が小学生だった頃、祖母にプレゼントされたおもちゃみたいなレコードプレーヤーだったという。そのレコードプレイヤーで四六時中聴いていたのが、タニヤ・タッカーのベストアルバムとキャロル・キングの『Tapestry』のアルバム。オリヴィア自身、この2枚のアルバムを聴く中で、ソングライティングについて学んだと語っている。そして2020年8月のTikTok初投稿でギターの弾き語りを披露、コメントではこれまでにもたくさんの曲を書いていることを伝えている。いま振り返るとこのTikiTokは、オリヴィアが本格的な音楽活動をスタートさせる所信表明だったように感じられる。

@livbedumb

hi! my first tik tok! my name is olivia and I write songs a lot! hope u like dis one!

♬ original sound – Olivia Rodrigo


2021年1月にリリースしたデビューシングル「drivers license」は、たった一晩で1,700万回を超えるグローバル・ストリーミングの記録を成し遂げ、 Billboard Global Excl. U.S.チャートでは9週連続1位という首位最長記録を樹立するモンスターソングとなっていく。そしてオリヴィアも瞬く間にトップアーティストの階段を駆け上っていった。ディズニースターとしての知名度は十分だが、チャート常連のトップスターと異なりアーティストとしての知名度はほぼ無かったオリヴィア。なぜ、彼女に全世界の関心が集まっていったのだろう。

世界中を駆け回ったデビューソング「drivers license」。

第64回グラミー賞でパフォーマンスするオリヴィア・ロドリゴ。Photo:Emma McIntyre/Getty Images

彼女が注目を集めた理由のひとつが「drivers license」が、オリヴィアの私的な失恋をもとにした作品だったという点だ。オリヴィアはこの楽曲についてこうコメントしている。“ある時期、私はとても複雑で多面的な失恋を経験していました。本当の悲しみに打ちひしがれ、気持が荒廃していた時にできたのが「drivers license」です。そしてこの曲が、性別や年齢、マイノリティに関係なく多くの人たちに影響していくことを発見することができました”この時期、オリヴィアは『ハイスクール・ミュージカル』で共演した俳優/シンガーであるジョシュア・バセットとの交際が噂されていた。そのバセットとの大失恋を歌ったものであるというゴシップがSNSで拡散されていく。それはリアルな失恋体験に共感した多くの若者たちを巻き込み、世界的なバイラルヒットに繋がっていった。

drivers license (和訳MV) -オリヴィア・ロドリゴ-

さらにオリヴィア自身が「世界最大のテイラーファン」と公言していて、多大な影響を受けたアーティストでもあるテイラー・スウィフト(以下 テイラー)の存在も大きく影響している。そのきっかけは、オリヴィアのおこなった『MTV Jam Session』のInstagramライブストリーム。テイラーの「Cruel Summer」カバー投稿に、テイラー自身も反応。

“THE TALENT! Love This!!!Thanks for this beautiful performanceこの美しいパフォーマンスをありがとう”

とコメントを残したことから、オリヴィアは敬愛するスーパースターから才能を認められ、2人の奇跡的な関係が始まっていく。そして「drivers license」リリース翌日にも奇跡が起きた。オリヴィアがiTunesのソングチャートでテイラーの楽曲に続き、「drivers license」が3位にランクインしたことを Instagramに投稿。すると、この投稿に対してテイラーから、またしても、オリヴィアへ賞賛のコメントが投稿されたのだ。

“I say that’s my baby and I’m really proud.これは私の子ども。とても誇りに思う”

赤裸々であり、ドリーミーでもあるオリヴィアの歌。

18歳にして全世界で大成功を記録しているオリヴィア。その魅力は「drivers license」に代表されるティーンエイジャーならではの瑞々しい繊細な視点で、現在進行形の自分自身を自然体に表現している点だ。特には赤裸々にさえ感じる歌は、オリヴィアと共に生きる若い世代から大きな共感と共鳴を持って受け止められている。ここからはアーティストとして、そして少女から女性へと成長してきたオリヴィアの1年を追体験してみよう。

Teen Vogue Summit 2021のステージで話をするオリヴィア・ロドリゴ。Photo:Jon Kopaloff/Getty Images

セカンドシングルとしてリリースされたのが「Deja Vu(デジャヴ)」。初めての出来事であるにも関わらず、以前に同じような事を体験したことがあるかのような感覚に包まれることを意味する言葉で、日本語で言う「既視感」。オリヴィアから失恋した相手に様々な問いかけがされる内容は、まるで「drivers license」の続編のような作品になっている。

“Do you call her, almost say my name?
彼女に電話して 私の名前と間違えることがあるでしょ

‘Cause let’s be honest, we kinda do sound the same
だって、私たちの名前は似ているから

Another actress
女優みたいに”

オリヴィアが好意を寄せていたバセットの新たな恋人が女優だったこともあり、「Deja Vu」も彼女の実体験としての想いが綴られているのでは?と想像に掻き立てられる。またミュージックビデオも必見。オリヴィアが憧れる女性・タリアのファッションやヘアスタイルや行動を監視し、その女性になり代わっていく衝撃的な内容だ。一方でマリブの海で撮影されたこともあり、明るく開放的な映像が広がる不思議な感覚を味わえる。大量に積まれたテレビモニターを壊していくシーンは、オリヴィアのアイデアもベースとなっていて、彼女の一番楽しみにしていたシーンだ。オリヴィアはこのミュージックビデオにおいて、彼女の中にあった余分なものを解放しようとしたのかもしれない。

deja vu (和訳MV) -オリヴィア・ロドリゴ-

サードシングルの「Good 4 U」は、それまでの2曲と違い、ポップパンク調な明るいサウンド感でオリヴィアの別の魅力を楽しめる作品となった。それが功を奏したのか「drivers license」が打ち立てたSpotify史上最高の週間再生数記録を自らが塗り替えてしまっている。この曲でもまた元恋人にあてた内容だが、その言葉はこれまで以上に過激なものだ。それまでの2作と違い彼女の失恋に蹴りをつけるかのような意志を感じるものになっている。

“Well, good for you, I guess you’re gettin’ everything you want
よかったね 欲しいものが何でも手に入ってくるんでしょ

You bought a new car and Your career’s really takin’ off
新車も買って、仕事も軌道に乗ってきて

It’s like we never even happened
私たちの関係が何もなかったみたいに

Baby, what the fuck is up with that? (Huh?)
それってどういうこと?”

自分との関係をなかったかのように振る舞う恋人に対して、オリヴィアが口にする言葉はさらにヒートアップし、最後には「ソシオパス(社会病質者)」という過激な言葉まで放つ。ミュージックビデオではチアガールに扮し陽気な少女を演じつつも、最後にはガソリンで恋人の部屋を燃やしてしまうというインパクトの強い映像になっている。そしてオリヴィアはこのミュージックビデオについて、このように語っている。

“私は秘密を抱えた一見善良な少女を演じています。
彼女には底知れぬ闇があるのですが、
周囲の人々にはそれが何なのかがわからない。
そんな彼女が完全に正気を失っていく様子を描いています”

good 4 u (和訳MV) -オリヴィア・ロドリゴ-

アルバム『SOUR』からのリカットシングル「traitor(裏切り者)」は、ストレートな言葉のタイトルに驚かされる。歌詞はずっと引きずっている元恋人への深い怨念。愛情が憎悪に変わった女性に鬼気迫るものを感じる。

“I went and fell in love with you
あなたに恋をする前に

When she’s sleepin’ in the bed we made
私達が作ったベッドで彼女が寝てる時

Don’t you dare forget about the way
私を裏切ったこと忘れてないよね?”

しかし、その詞世界とは異なるメロウでドラマチックなバラードをオリヴィアは見事に歌い上げ、聴く人の胸に深く残る作品となっている。オリヴィアは皮肉にもこの曲でシンガーとしての実力を改めて見せつけてくれた。そんな彼女の堂々としたパフォーマンスを、アメリカン・ミュージック・アワード2021からの映像で感じることができる。

traitor (Live From The American Music Awards/2021) -オリヴィア・ロドリゴ-

最後に紹介するのは、 アルバム『SOUR』のトップを飾る曲の「brutal」。当時17歳だったオリヴィア、そして多くのティーンエイジャーが持つ焦燥感を強烈なロックサウンドで歌った作品だ。

“And I’m so sick of seventeen
もう17歳なんてうんざり

If someone tells me one more time ”Enjoy your youth,”
もし誰かに、もう一度「若さを楽しめ」なんて言われたら

I’m gonna cry
きっと泣いてしまう ”

そして「ほんとの友達は二人しかいないし、最近は神経がすり減ってておかしくなってる」と吐露していく。これが世界中からスポットライトを浴びている彼女の内面なのか、想像の世界なのかはわからない。ただ言えるのは、同じティーンエイジャーの心情に共鳴し、彼らの代弁者としての新たなオリヴィアのスタンスが明確になったこと。ミュージックビデオで、様々な若者たちに成り代わって歌うオリヴィアの姿はとてもポップでチャーミングだ。デビュー以来、失恋を主軸とした作品で若者たちのカリスマとなったオリヴィアが見据える新たなテーマであるのと同時に、彼女の精神的な背景と成長をこの楽曲から垣間見ることができる。

brutal (和訳MV) -オリヴィア・ロドリゴ-

オリヴィアは現在、ヨーロッパツアーを敢行中だ。19歳の彼女がこれからどのように成長するかを世界中が楽しみにしている。重圧はあるかもしれないが、変わらぬ自然体であって欲しい。そして早く日本でも会えることを楽しみにしていよう。

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PLAYLIST